山梨と長野。日本ワインを代表するふたつの産地のぶどうが、1本のボトルの中で出会います。
サントリーは2026年9月8日(火)、日本ワインブランド「SUNTORY FROM FARM」から新商品「結の香(ゆいのか) テロワールアンサンブル」を全国で数量限定発売します。山梨県の登美の丘ワイナリーと、長野県の信州塩尻ワイナリー。それぞれが磨いてきた原酒をアッサンブラージュ(ブレンド)した赤ワインです。
「テロワール=土地の個性」を追求するのが日本ワインの潮流だったはずなのに、なぜ今、あえて産地を跨ぐのか。この記事では、商品スペックの整理から、ふたつのワイナリーのテロワールの違い、そして「テロワールアンサンブル」という発想が日本ワインにとって何を意味するのかまで、ワインエキスパートの視点で掘り下げます。
この記事でわかること
- 「結の香 テロワールアンサンブル」の発売日・スペック・価格の考え方
- 登美の丘と信州塩尻、ふたつのテロワールの違い
- 「テロワールアンサンブル」という考え方と、単一畑主義との関係
- なぜこのワインはラベルに「山梨」とも「長野」とも書けないのか
- どこで買えるか、どう飲むか、何と合わせるか
※本記事は2026年7月26日時点の公開情報(サントリー公式ニュースリリース No.15083)に基づいて構成しています。発売前の商品のため、味わいに関する記述は公式発表と品種特性からの推測を含みます。
「SUNTORY FROM FARM 結の香 テロワールアンサンブル」とは
まずは公式発表されている商品概要を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品名 | SUNTORY FROM FARM 結の香(ゆいのか) テロワールアンサンブル |
| 色/タイプ | 赤/ミディアムボディ |
| 容量 | 750ml |
| アルコール度数 | 12% |
| 品目 | 果実酒 |
| 価格 | オープン価格 |
| 発売日 | 2026年9月8日(火) |
| 発売地域 | 全国(数量限定) |

価格は「オープン価格」──実売価格はどう考えるべきか
注意しておきたいのが、今回の商品にはメーカー希望小売価格が設定されていない点です。「オープン価格」とは、メーカーが小売価格を提示せず、販売店側が自由に価格を決める方式のこと。つまり、酒販店・百貨店・オンラインショップで価格が異なる可能性があります。
FROM FARMのラインナップは、品種シリーズが2,000円前後、テロワールシリーズやワイナリーシリーズが3,000〜5,000円台という構成が中心です。複数ワイナリーの上位原酒をアッサンブラージュした数量限定品という位置づけを踏まえると、そのなかでも上のレンジに入る可能性が高いと見ていますが、これはあくまで既存ラインからの推測です。発売日が近づいたら、各販売店の店頭価格を確認してください。
「結」と「香」──ネーミングに込められた設計思想
商品名の由来は、サントリーが明確に説明しています。
- 結=ふたつのワイナリーを結ぶという意味
- 香=全体の調和の役割を果たす、ミズナラ樽熟成マスカット・ベーリーAの香りの個性
ここで見逃せないのは、「香」がマスカット・ベーリーA由来だと明言されている点です。つまりこのワインは、メルロとプティ・ヴェルドという欧州系品種の骨格を、日本固有品種+日本産オークの香りが橋渡しするという設計になっている。名前そのものが構造の説明になっているわけです。
パッケージのモチーフは日本の伝統工芸「組紐」。複数の糸を複雑に組み上げて一本にする工芸は、アッサンブラージュの隠喩としてよくできています。
3つの原酒を読み解く|メルロ・マスカット・ベーリーA・プティ・ヴェルド
公式発表によれば、中味は以下の原酒などをアッサンブラージュしたものです。それぞれが何を担っているのかを見ていきましょう。

信州塩尻のメルロ|土台となる「凝縮感となめらかさ」
サントリーが「凝縮感がありなめらか」と表現するメルロは、このワインの土台でしょう。
長野県塩尻市、とりわけ桔梗ヶ原(ききょうがはら)地区は、日本におけるメルロの銘醸地として国際的にも知られる土地です。標高700m前後の高原性気候で、生育期の日照に恵まれ、収穫期に向けて昼夜の寒暖差が大きくなる。この条件がメルロに凝縮感と落ち着いた酸をもたらします。
メルロは、カベルネ・ソーヴィニヨンに比べてタンニン(渋み成分)がきめ細かく、口当たりが丸いのが特徴。ミディアムボディという設計を考えると、このメルロが「飲みやすさ」の中心を担っていると考えるのが自然です。
ミズナラ樽のマスカット・ベーリーA|このワインの「顔」
個人的に最も注目しているのがここです。
マスカット・ベーリーA(MBA)は、川上善兵衛が交配した日本固有の黒ぶどう品種。イチゴやキャンディを思わせる甘やかな香り(フラネオールという成分に由来)が特徴で、タンニンは穏やか。和食との相性の良さから、日本ワインの代表品種として定着しています。
そのMBAを、ミズナラ樽で熟成させている。ミズナラは日本産のオークで、ジャパニーズウイスキーの世界では「白檀(びゃくだん)や伽羅(きゃら)を思わせるオリエンタルな香り」を与える樽材として世界的に評価されています。フレンチオークのバニラ香、アメリカンオークのココナッツ香とは明確に異なる、お香のようなニュアンスです。
MBAの果実香とミズナラの香木のニュアンスが重なったとき、どんな香りになるのか。「全体の調和の役割を果たす」とサントリーが位置づけているところを見ると、これが異なる産地の原酒を一本の線でつなぐ接着剤として機能する設計なのだと読めます。
登美の丘のプティ・ヴェルド|「気品と力強さ」の補強
プティ・ヴェルドは、ボルドーの補助品種として知られる黒ぶどう。色が非常に濃く、タンニンとスパイシーさが強いため、本場ボルドーでもブレンドに数%加えて骨格を締める使われ方をします。
興味深いのは、この品種が日本の気候に思いのほか合うという点です。晩熟型でボルドーでは完熟しきらない年もあるのに対し、日本の暑い夏では十分に熟す。そのため近年、日本の生産者がプティ・ヴェルドを主要品種として真剣に扱う例が増えています。
サントリーが「気品と力強さを備えた」と表現しているとおり、メルロとMBAだけでは出ない色調の濃さと構造を与える役割でしょう。
登美の丘と信州塩尻|ふたつのテロワールを比較する
では、原酒を生んだふたつのワイナリーはどう違うのか。
| 登美の丘ワイナリー | 信州塩尻ワイナリー | |
|---|---|---|
| 所在地 | 山梨県甲斐市 | 長野県塩尻市 |
| 立地 | 甲府盆地を望む南向きの丘陵地 | 標高700m前後の高原 |
| 気候の特徴 | 日照豊富、水はけの良い斜面 | 冷涼、収穫期の寒暖差が大きい |
| 主な品種 | カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、プティ・ヴェルド、甲州 ほか | メルロ、マスカット・ベーリーA、シャルドネ ほか |
| 今回の役割 | プティ・ヴェルド(骨格・気品) | メルロ(土台)、MBA(香りの調和) |

山梨・登美の丘ワイナリー
甲府盆地を見下ろす南向きの丘陵地に広がる自社畑を持つ、サントリー日本ワインの象徴的な拠点です。斜面地形は排水性に優れ、ぶどうの根が水を求めて深く伸びる。これが凝縮感につながります。日照に恵まれた環境は、晩熟のプティ・ヴェルドを完熟させるうえで有利に働きます。
長野・信州塩尻ワイナリー|1936年開設、そして2026年の改称
塩尻のワイナリーは1936年の開設。2026年で開設90年を迎えます。地元のぶどう農家とともに日本のワインの歴史を切り拓いてきた拠点です。
そして重要なニュースがひとつ。2026年9月1日(火)より、「サントリー塩尻ワイナリー」は「サントリー信州塩尻ワイナリー」へ名称変更されます。
名称変更には、長野県各地の多様なテロワールを映し出す高品質なワインづくりを通じて、銘醸地・信州の発展に貢献したいという意図が込められています。あわせて、長野県内各地のテロワールを表現したパッケージへの刷新も予定されています。
つまり「結の香」は、改称からわずか1週間後に発売される、新名称での最初期の看板商品ということになります。塩尻という一市の名前から「信州」という広域へ視野を広げる動きと、産地を跨ぐアッサンブラージュという商品設計。この2つが同時に発表されたのは、偶然ではないでしょう。
「テロワールアンサンブル」という発想|単一畑至上主義との対比
ここからが本題です。
単一畑(シングルヴィンヤード)という価値観
ワインの世界には長らく、「区画が狭いほど価値が高い」という価値観があります。ブルゴーニュはその極致で、同じ村の隣り合う畑でも、グラン・クリュとプルミエ・クリュでは価格が桁違いになる。「このワインは、この畑の、この年の表現である」という一意性が価値の源泉になっているわけです。
日本ワインもこの20年、この方向に進んできました。「◯◯地区の△△品種」を掲げる単一畑ワインが増え、産地の個性を語ることが品質の証明になってきた。FROM FARM自身、「テロワールシリーズ」として信州富士見町産の甲州や津軽のぶどうを使った商品を展開しています。
しかし、ブレンドもまた「伝統」である
一方で、世界の銘醸地を見渡すと、ブレンドこそが伝統だという産地も多いのです。
- ボルドー:カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドなどを毎年最適な比率で組み合わせる。アッサンブラージュはシャトーの技術そのもの
- シャンパーニュ:複数の村・複数の年のワインをブレンドする「ノン・ヴィンテージ」が主流。毎年一定の味わいを再現する技術が評価軸になる
- ポートワイン、リオハ、南ローヌ:いずれも複数品種・複数区画のブレンドが基本
つまり「単一畑=高級、ブレンド=廉価」ではありません。単一畑は「土地を映す」ための手法、ブレンドは「造り手の理想像を組み立てる」ための手法であって、優劣ではなく思想の違いです。
日本の気候だからこそ、「跨ぐ」意味がある
そのうえで、日本ワインにおける産地ブレンドには、もう一段の実務的な意味があると考えています。
日本は、ヴィンテージ変動(年ごとの出来不出来の差)が大きい産地です。収穫期に台風が来る、長雨が続く、猛暑で酸が落ちる──ヨーロッパの主要産地と比べても、天候リスクの振れ幅が大きい。単一畑にすべてを賭ければ、悪天候の年はそのまま品質に直結します。
ここで山梨と長野という、気候の異なる産地の原酒を持てるとどうなるか。一方が難しい年でも、もう一方が補える。複数のワイナリーと自社畑を抱えるサントリーのような大手だからこそ取れる戦略であり、同時に、日本ワイン全体が品質を安定させていくうえでの現実的な回答のひとつでもあります。
「テロワールアンサンブル」という言葉は、テロワールを否定するのではなく、複数のテロワールを重ね合わせるという宣言だと読むべきでしょう。組紐というモチーフが選ばれたのも腑に落ちます。
なぜラベルに「山梨」とも「長野」とも書けないのか
ここで、多くの記事が触れないであろう視点をひとつ。このワインは、法律上ラベルに産地名を表示できません。
日本ワインのラベル表示は、国税庁の「果実酒等の製法品質表示基準」(2018年10月30日適用開始)で厳格に定められています。
地名を表示できる条件
原料として使用したぶどうのうち、同一の収穫地で収穫されたものを85%以上使用していること(醸造地についても要件あり)
山梨と長野のぶどうを組み合わせた時点で、どちらの県も85%を下回る可能性が高い。すると「山梨ワイン」「長野ワイン」といった表示は使えず、さらに地理的表示であるGI Yamanashi(2013年指定)やGI長野(2021年指定)も名乗れません。GIはいずれも当該県産ぶどう100%が前提だからです。
だからこそ、この商品は「結の香」という固有名詞で立たなければならない。産地名という強力なブランド資産を手放したうえで、名前と造り手の技術だけで価値を訴求する。これは日本ワインとしてはかなり挑戦的なポジショニングです。
言い換えれば、産地ブレンドが今後の潮流になるかどうかは、「産地名がなくても売れるブランドを作れるか」にかかっている。「結の香」の売れ行きは、その試金石として見る価値があります。

どこで買える?購入方法と注意点
発売は2026年9月8日(火)、全国で数量限定です。想定される購入ルートは次のとおり。
- 酒類取扱店・百貨店の酒売り場:日本ワインの品揃えがある店舗が中心
- SUNTORY FROM FARM online shop:ブランド公式のオンラインショップ
- 登美の丘ワイナリー/信州塩尻ワイナリー:ワイナリーショップ
- 各種オンライン酒販店:取扱いは店舗による
購入時の3つの注意点
- 数量限定です。FROM FARMの限定品は完売する例が少なくないため、確実に入手したい場合は発売直後の動きが賢明です
- オープン価格のため、店舗により価格が異なります。複数店舗の比較をおすすめします
- 過去のFROM FARM限定品では、直営ワイナリーや公式オンラインショップでの先行発売が実施された例があります。今回のリリースに先行発売の記載はありませんが、公式サイトの告知は確認しておくとよいでしょう
どう飲む?合わせたい料理
飲用温度とグラス
ミディアムボディの赤ワインなので、16〜18℃が目安です。夏場の室温はこれを上回るため、飲む30分ほど前に冷蔵庫へ入れて軽く冷やすと、香りが締まって果実味がきれいに出ます。冷やしすぎるとタンニンが硬く感じられるので注意してください。
グラスは、大ぶりのブルゴーニュ型よりも中庸なボルドー型かユニバーサル型が向くでしょう。ミズナラ由来の繊細な香木のニュアンスは、開きすぎるグラスだと拡散してしまいます。
(ボディの違いについては、【初心者向け】ワインの「ボディ」とは?フル・ミディアム・ライトの違いを徹底解説もあわせてどうぞ)
味噌・醤油を使った和食との相性
サントリー自身が「味噌や醤油など、日本の発酵調味料を使った和食とも相性の良い味わい」と明言しています。これは単なるセールストークではなく、成分レベルで理にかなった組み合わせです。
味噌や醤油の香ばしさは、アミノ酸と糖が加熱で反応するメイラード反応によって生まれます。一方、樽熟成によって生じる香ばしいトースト香も、同系統の香気成分を含む。共通の香りの要素が橋渡しになるため、樽を使った赤ワインと照り焼き・味噌煮の相性は良好なのです。
具体的には、こんな料理が候補になります。
- 鶏もも肉の味噌焼き:味噌の香ばしさとミズナラ樽の香りが重なる王道
- 豚の角煮:醤油とみりんの甘辛さに、MBAの甘やかな果実香が寄り添う
- すき焼き:割下の甘辛さと卵のコクを、ミディアムなタンニンが受け止める
- ぶりの照り焼き:魚でも、醤油ベースの照りがあれば赤ワインは十分に合います
- きのこと牛肉の甘辛炒め:きのこの旨味が熟成香と共鳴する
- 味噌田楽・鶏の照り焼き:家庭の定番でこそ試してほしい組み合わせ
逆に避けたいのは、生魚(刺身)や酢の強い料理。プティ・ヴェルド由来のタンニンが、魚の脂と反応して金属的な後味を生む場合があります。
よくある質問(FAQ)
Q. 「結の香」はどう読みますか?
「ゆいのか」と読みます。ふたつのワイナリーを「結ぶ」意味の結と、調和をもたらすミズナラ樽マスカット・ベーリーAの「香」を組み合わせた名前です。
Q. 価格はいくらですか?
オープン価格のため、メーカー希望小売価格は設定されていません。販売店ごとに価格が異なります。発売が近づいたら各店の価格を確認してください。
Q. 毎年発売される定番商品になりますか?
現時点では数量限定の新商品としての発表のみで、継続販売についての公式アナウンスはありません。
Q. 「日本ワイン」なのですか?
国産ぶどうのみを原料として国内で醸造されたワインは「日本ワイン」と表示できます。登美の丘・信州塩尻両ワイナリーの原酒を使用した本商品は、この定義に該当します。ただし前述のとおり、複数県のぶどうを組み合わせているため、産地名やGIの表示はできません。
Q. マスカット・ベーリーAが苦手でも飲めますか?
MBA特有のイチゴキャンディ的な香りが苦手という方は一定数いますが、本商品ではMBAは「香りの調和役」という位置づけで、メルロとプティ・ヴェルドが骨格を担います。加えてミズナラ樽熟成によって、MBA単体とは異なる香りの層が加わっているはずです。単一品種のMBAとは印象がかなり違うと予想されます。
まとめ|「産地を跨ぐ」ことの意味を確かめる1本
「SUNTORY FROM FARM 結の香 テロワールアンサンブル」のポイントを整理します。
- 2026年9月8日発売、全国・数量限定。赤/ミディアムボディ、750ml、12%、オープン価格
- 信州塩尻のメルロとミズナラ樽MBA、登美の丘のプティ・ヴェルドなどをアッサンブラージュ
- 塩尻ワイナリーは発売直前の9月1日に「信州塩尻ワイナリー」へ改称
- 複数県のブレンドゆえ、ラベルに産地名やGIを表示できない挑戦的なポジショニング
- 味噌・醤油を使った和食との相性を狙った設計
単一畑を突き詰めるのか、複数のテロワールを組み合わせるのか。どちらが正解ということはありません。ただ、日本という天候変動の大きい産地において、複数産地を持つ大手が「跨ぐ」という選択肢を正面から商品化した意味は小さくないと考えています。
9月8日、実際に飲んでみたら、あらためてテイスティングノートをお届けします。
※免責事項:本記事は2026年7月26日時点の公開情報(サントリー株式会社ニュースリリース No.15083・No.15082、国税庁「果実酒等の製法品質表示基準」等)に基づいて作成しています。発売前の商品であるため、味わい・価格に関する記述には筆者の推測を含みます。商品情報・価格・販売状況は変更される場合がありますので、購入前に必ず公式サイトまたは販売店にてご確認ください。本記事の商品リンクにはアフィリエイトリンクを含む場合があります。購入者に追加費用は発生しません。
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